〜ひそやかに咲く名も無き花〜

思考整理、時々ポエマー。自作です。著作権フリーではありません。

疑似恋愛

※ 携帯小説風の読み物です。※

 

1.別れ

飽きっぽい性格。物にも人に対しても。長く続いたためしがない。

彼女はボンヤリと、こんなことを考えていた。
彼から呼びだされ、別れ話の最中である。

正直 めんどうになっていたし、このところ連絡も途絶え、お互い自然消滅と思っていた。

が、告った女から「今のカノジョときちんと別れないと付き合えない!」と言われたらしい。

まったく迷惑な話。涙さえでない。

こんな時、ウソ泣きでもすれば、かわいい女に見えるんだろうか。

まぁ、こんな性格だから仕方ない。半年か。続いたほうだよね。
「うんわかった。それじゃさよなら。彼女とお幸せに。」
あまりにあっさりした別れに、彼のほうはひょうしぬけしたようだ。

10分で終了する話。ただそれだけだったのだ。

同棲を持ち掛けられこともあったが、断っておいてよかった。別れる時がめんどうだもの。
真っすぐアパートへ帰る。
「新しいアパート探そかな。もうすぐ契約も切れるし、ちょうどいいよね。」
彼女は男と別れるたびに引越している。

といっても、さっき別れた彼が3人目。経験豊富なわけではない。

別れた後にフラリと尋ねて来られたら迷惑なのだ。そういうのは最初の男で懲りていた。

 

2.彼女

彼女の名は渡辺莉央(ワタナベリオ)。29歳。

大卒の出版社勤務。もう7年になる。

この仕事は すぐ環境がかわり、飽きっぽい莉央に合っていた。

社内に権力や出世争いはあるのだが、莉央は巻き込まれないよう、やり過ごしてした。

「渡辺~。ちょっと!」鬼の異名をもつ 木戸沙織(キドサオリ)編集長に呼ばれた。

なにかと莉央に目をかけてくれる。
「なんですか~。」
「昨日どうだった?」
「どうって。なにごともなく、いわゆる前向きな別れです。」
「あはは。相手はそうだけど、あんたはどう前向きなのさ。」
「はれて仕事にうちこめます。」
「仕事に影響するような恋愛なんかしてないでしょ。はいこれ、次の企画。」

企画書には【別れを惜しむ恋愛】の文字がある。
「編集長、私にあてつけですか? 不適任です。」
「私の愛情!渡辺にも普通に恋愛して欲しい。勉強しな。」
「勉強は終わりました。」
「とにかく、やれったらやれ。上条とペアね。」
「う゛っ。ダブルパンチ。」
「よろしく~。」
「やっぱり鬼だ。」

よりによって上条とは。

「渡辺さん、どうぞよろしくお願いします。優しくして下さい。」
「どうも~上条くん。鬼編集長の部下は、小鬼だよ。」

 

3.彼

上条守(カミジョウマモル)、25歳。つかみどころナシ。
「上条くん、恋愛経験は?」
「あるような、ないような。」
「フィギュアに恋してそうだもんね。」
「ひどいな。ちゃんと人間に恋しますって。」
「今、彼女は?」
「いません。多分。」
「多分?どうゆうことよ。」
「彼女の定義って何ですか?」
「お互いに付き合ってるって認めたら、彼氏彼女なんじゃないの?」
「付き合ってと言われて、僕は返事したことないんです。でも彼女たちは他人に【僕の彼女】だと主張する。」
「ちょいまて~ぃ!彼女たち?たちって?」
「えっと、アイミ、エリ、カオル、ソラ、サキ。。。こんなもんかな。」
「プレイボーイ。」
「言い方が古いです。」
「カチン。」
「またっ。昭和ブームですか?」
「えっと、私たち、相性良くはないよね。」
「そんなことありません。僕は大丈夫です。」
あぁやっぱり不思議ちゃんだ、絶望的。記事なんか書けるわけないよ。

 

4.提案

「編集長、今の聞いたでしょ?この二人じゃムリですって。」
「もう、笑いしか出てこない。あははは。」木戸は涙まで浮かべ、笑い転げている。
「マトモな人と組ませて下さいよ。」
「だって、売れ残り二人組。自覚あるんでしょ。」
「う゛っ。スパッと切られた。」
「上条は渡辺とペアで問題ある?」
「いいえありませ~ん。渡辺さんは少々せっかちのようですが、大丈夫です。」
「ま、ここまでは予想通りの展開。そこで提案!君たち、明日から二人で暮らしなさい。」
「へっ?」
「ほっ?」
「なんでこんなんと!私、一応《おんな》ですからね。わかってます?」
「ほら、擬似恋愛ってヤツよ。で、二人の生活をそれぞれの目線で、朝昼晩の3回、ブログ風にして私にメールすること。期間は2週間。部屋と必需品は揃えてあるから、着替えだけ用意して夕方集合。」
「提案なのに、準備万端。つか、意味わかりません。」
「僕は別にかまいませんよ。」
「編集長命令。あななたちのクビは私が預かってる。」
「え?私たちリストラ候補!?」
「そゆうこと。頑張ってね。」
こうして、二人の生活が突然はじまることになった。

 

5.モテる彼

「莉央。ちょっとちょっと。」
同期の梁瀬遥(ヤナセハルカ)だ。
「なに?」
「お願い。紹介してよ守くん。コンビなんだって?」
「相変わらず情報早っ。遥ってば、イケメンなら誰でもいいわけ?あいつ性格に難アリだよ。」
「見た目が肝心。お近づきになりたいの。」
「カノジョにしてって言ったら、カノジョを名乗っていいらしいよ。そういう取り巻き連中がゴロゴロいるんだって。遥もそうすれば?」
「なんだ簡単。んじゃ告っちゃお!」
言うが早いか、彼のとこに向かっていった。

ふと興味がわき観察していると、告られた上条は、曖昧かつ紳士的な笑顔だった。

あぁ、あれで女はオッケーだと勘違いするんだな。上条のやつズルイ。

 

6.204号室

待ち合わせ場所。会社からは遠い駅前。

編集長が車に呼ぶ。上条の車。外車だ。

10分くらいでアパートについた

204号室。日当たり良好2DK。スーパー、コンビニ、薬局も近い。
「いいとこでしょ。生活費は経費だけど節約生活してね。食事は自炊。じゃ報告まってる。」
「編集長待って。」
「今日は話し合いと生活準備。明日から毎日3回の報告忘れない。パソコンは二人分、そこにあるから。」
と、あっさり帰ってしまった。

「で、どうする夜ご飯?」
「色気より食い気。好きだなぁ。」
「うるさいっ。腹が減っては戦ができぬ。」
「僕、家事全般できません。」
「そうか。上条くんボンボンだ。まさか家事は全部私?」
「料理はまかせて下さい。」
「ちゃんと食べれるものよね?」
「趣味ですから。創作料理!。」
「私、偏食。怪しいのはパス。普通のでいい。普通ので。」
「ちぇっ。じゃあ純和風で。ちなみに洗い物もできません。」
「ウソ。」
「食洗機ないみたいですね。」
「どこまでもボンボン。わかった。私が洗う。洗濯は別々でいいよね?上条くんの服、高そう。」
「2週分ありますから。」
「臭いから下着くらい洗いなさいよ。」
「はい。洗濯機の使い方教えて下さい。」
「いや、下着だけなら手洗いでいいから。節約生活!」

 

7.2週間

「くやしいけど料理は負けた。」
「やった!で、莉央さん、これからどうします?」
「馴れ馴れしく名前で呼ばない。お風呂入って、自分の部屋でおやすみ。」
「じゃなくて、明日からです。それに恋愛は名前で呼びあわないと。」
「おままごとは苦手なんだよね。」
「人物像を設定しましょう。イケメンとおねえさんの、めくるめく2週間。とか。」
「アホっ。OLのもとに転がりこんだ迷い犬。って感じ。」
「僕、人間ですって。」

それから、めぐるましく時が過ぎ、約束の二週間後。
「二人ともご苦労さん。」
「擬似恋愛、悪くなかったです。」
「お?渡辺。あんなに嫌がってたのに。」
「僕、幸せでした。」
「フフっ。で、今後の予定。ブログ風メールもとに、出会いから別れまで短編小説にする。期限は2週間。」
「また2週間ですか?」
「1週間で仮提出。あと1週間で校正。」
「はい。」
「まだ二人のクビは預かったままだよ。しっかり。でさ、終わったら付き合っちゃえば。」
「え?」
「ん?」
「互いの顔に書いてある【別れを惜しむ恋愛】って。」

 


さて、この二人の2週間については、また次の機会にでも。

 

~終~